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木造2階建て倉庫の1階部分を、塗装工事業の事務所に改修したプロジェクトである。

わずか36㎡(約11坪)という限られた空間の中に、オフィスの機能を損なうことなく、いかにして「広がり」や「豊かさ」を内包できるかを考えた。

 

既存の内装が撤去された時、いくつかの発見があった。

各方角にバランスよく配された6つの引き違い窓。

イレギュラーに建つ6本の独立柱。元は現しであったであろう、念入りに塗装された2階床を支える梁と床組。

空間の「豊かさ」は、これら既存のエレメントに由来すべきであると直感した。

新旧それぞれのエレメントが互いに引き立てあい、相互に補完的な関係を築く。そのような空間に「豊かさ」を見出そうと考えた。

 

迷路のような入組みと、まだ見ぬ風景への期待が、街歩きを魅力的なものにしている。

迷路性や散策性のある空間構成には、ある種の「広がり」の感覚がある。

もといた場所に再び戻って来るような回帰性や錯乱性も重要な要素である。

一連のシークエンスには、限られた空間の中に「広がり」を体現する手法のヒントがあるように思えた。

有限な小空間に「広がり」を認知させる手法を模索した。

 

既存在来グリッドの上に、傾き1/3(18.43°)の新規グリッドを重ね合わせた。

新規斜めグリッドを頼りに空間を分割することで、必要面積を確保しつつ、各スペースが既存窓の恩恵を受けることができる平面計画とした。

 

利用頻度が最も高い「打合せスペース」は、天井現しとし、全体の中心に配置した。

既存梁と床組は、白く立ち上がる壁に強調され、美しい幾何学天井となった。

各スペースは、斜めグリッドによる歪な平面形とダクトスペースを考慮した斜め天井の断面形により、それぞれに豊かな個性が生まれた。

また、壁と天井の塗装仕上げは、各スペースの抽象度を格段に上げ、広がりの認知に寄与している。

 

建具を設けることなく、一筆書きで空間を繋ぎ、シークエンスを構成した。

「エントランス」から「打合せスペース」、「打合せスペース」から「事務スペース(1)」…。

最後は、「事務スペース(2)」に小さな窓を設けることで、「エントランス」へと回帰させ、円環の空間構成とした。

 

斜めグリッドによる方向感覚の錯乱と迷路性。

個性を持つ各空間が連続することで生まれるシークエンスの入組みと散策性。

円環構造の回帰性。

これら一連の操作と体験によって、「認知的な広がりの可能性」の一端を垣間見ることができた。

​Yoshii Paint Office/吉井塗装事務所改修工事

計画種別  : 内装改修工事

建物用途  : 事務所

計画期間  : 2020年6月〜2021年1月

施行床面積 : 36.00㎡

構造    : 木造

設計    : 佐藤 圭真

施行    : (有)沖坂建築・(株)吉井塗装

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