夫婦と子供、3人構成の家族に向けた平屋の住宅である。
建築主からは、LDKと2つの居室に加え、最低限の広さの水回り空間を持つ、「小さな住宅」が要望としてあがり、
早期に、敷地形状と予算の観点から、1辺が7.28m(4間×4間)の平屋正方形プラン(4間×4間)で進める流れになった。
この時、僕が独立して間もなく構想した「□+◯」(2022年,基礎空間スタディ)が、そのまま住宅に落とし込めると直感した。
建築主は、「□+◯」が生む、連続性(空間の連続)と回帰性(回帰の動線)のコンセプトに、深い共感と関心を示した。
そして、この実験的な住宅プロジェクトを二つ返事で受け入れてくれた。
建築における連続性や回帰性、それに伴う迷路性が、広がりの認知に影響していると『ケイマン立体-建築における回帰性と再帰性+擬似再帰性に関する研究-』(2019年,自身の修士論文)で推論した。
その後、「Yoshii Paint Office」(2020年,塗装業事務所のリノベーション)で、連続性と回帰性、不定形の入り組みによる迷路的な空間構成が、利用者にある種の広がりを認知させることを確信した。
以来、ある空間から次なる空間を視認すること、気が付くと元いた場所に戻ってきていること、入り組みによって全体を把握できないことなどの意義や在り方、設計手法への強い探究欲があった。
住宅における各部屋の連続性や回帰の動線、全体把握困難な迷路的な空間構成は、広がりの認知以外に、どのような意義を見出せるだろうか。
以下3つの操作で、連続性と回帰性を持つ空間構成の構築を試みた。
□_空間の分節:求められた居室の数に応じて、単純な矩形空間に分節する。
+_境界線の空間化:分節に用いた線に厚みを与え、非居室空間とする。
◯_空間の接続:非居室空間を外周から切り離し、居室空間をひと繋がりにする。
吹き抜けた玄関が始点。反時計回りに進むと、高い天井と大きな窓が印象的な8畳のリビング・ダイニングが見えてくる。
気積を縮小しながら、6畳の寝室から4畳半の子供部屋と続く。まだ先が見える。
ロフトへのはしごが象徴的に吹き抜けを貫き、その先に光が見える。光の正体は——始点への回帰である。
各居室は正方形かつ対象の位置に出入口がある類似の空間を意図した。
それぞれの部屋の出入口に建具は設けず、その先の空間を視認できるようにした。
居室空間を間仕切る非居室空間は、キッチン、トイレ、浴室、ランドリー、2つの収納からなる。
十字形の非居室空間の天井裏は、外周部に接続することで、ダクトスペースとなった。
建築主は、「訪れた人のほぼ全員が、外観からは想像もしなかった広さを感じて困惑します。
あれ?また次の部屋?また次?ここにも部屋?というリアクションを見るのが面白い!」と言う。
意図していた通りの空間ができたのだと思った。また、空間が空間によって間仕切られるという構成は、居室と非居室の関係を機能的かつ意匠的に整合させた。
非居室空間は、ウォルナット色に着色したラワン合板の壁とし、入れ子であることを際立たせながら、各居室の拠り所として機能している。
考え事をしながら、部屋から部屋へとぐるぐる歩き回っていた。
また同じ部屋に戻ってきたなと思いながら窓に目を向ける。差し込む光に、時間の経過を見た。
同じであって、同じで無い。その瞬間、単なる幾何学は愛おしい暮らしへと変容した。
「◻︎+⚪︎」
Tsubame,Niigata
叶う家
…
所在地:新潟県
主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦+子供
-設計-
佐藤圭真建築設計事務所 担当:佐藤圭真
構造 佐藤圭真建築設計事務所
-施工-
有限会社沖坂建築 担当:沖坂裕太
電気 みつでん 担当:大岩光輝
設備 アピア総合設備 担当:小黒健太
-構造・構法-
主体構造・構法 在来軸組金物補強構法
基礎 ベタ基礎
-規模-
階数 地上1階
軒高 4.075m
最高高さ 4.247m
敷地面積 104.36㎡
建築面積 52.99㎡(建蔽率50.77% 許容60%)
延床面積 52.99㎡(容積率50.77% 許容160%)
-工程-
設計期間 2023年3月〜2023年7月
工事期間 2023年8月〜2023年11月
-設備システム-
空調 冷暖房方式:ルームエアコン
換気方式:第3種換気
給排水 給水方式:上水道直結
下水方式:公共下水
給湯 給湯方式:ガス給湯器
撮影/佐藤圭真建築設計事務所